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情報化爆弾としての「イラク人質事件」

例のイラク人質事件も、何となく収束(単に飽きた)に向かっている今日この頃、パッシングだ自己責任だと言う言葉ばかりが踊り、この事件の何がユニークだったのかについて、実はあまり触れられてないのではないかと感じた。
この事件の新しかった点は、テロリストグループが、メディアとパソコンをとても活用した点が上げられる。そして、これから先、パソコン、DVカメラ、インターネットはテロリストグループにとって3種の神器になるだろう。
考えてみよう。相手は、1万人規模の百戦錬磨の海兵隊、我がテロリストグループは、100人規模の、資金も豊富な弾丸も無い。まともに戦って勝てる訳がない。もし、自分のグループが対して傷つかずに相手が撤退したら、こんなに美味しいことはない。
そこで考え出されたのが、「誘拐事件で軍隊の撤退を要求する」だ。死ぬほど低いコストで、うまく行けば敵軍の撤退というメリットが得られる。こんな美味しい戦術はそうそう無い。
ちなみに今回、テロリストがかけたコストを、見積もってみよう。(注、別にアラブの状況に詳しいわけではない。本当にこの値段かどうか知らない)。

動画編集用のノートパソコン3000ドル(レンタルもあり)
DVカメラ1000ドル
インターネット100ドル
エキストラ10ドル/人
日本の大山鳴動っぷりpriceless

コストに対して、リターンが大きければ、コストパフォーマンスがいいと言える。たかだか4-5000ドルで、こんなに大きな混乱を引き起こせるなら、いちいち自爆テロなんて、コストが高すぎてやってられない気になるだろう(志願する人間を捜し、残された家族の面倒を見るだけでも大変だ)。
この戦術だったら、適当に人質を誘拐し、撤退を要求する。ダメだったら一人いたぶっていき、相手国の世論の動揺を誘う。しかも、DVカメラをつかって撮影し、編集してしまえば、最大限相手をいたぶる映像を見せることが出来る。
これを手紙がやろうとすると大変だ。「人質を預かった。ウンヌン」その手紙が日本に届くのに数日、内容が本当かどうか確認作業に数日、手紙であるので、インパクト薄い。どう見ても割に合わない。
今回の事件は、DVで撮影し、編集し、そのままCD-Rに焼いて放送局に持ち込む。スピーディにインパクトのある映像を流し、ついでに政治的要求もする。メディアの使い方を良く心得ているとしか言いようがない。

「ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争」(高木 徹,講談社)という本がある。アメリカの広告会社が、「民族浄化」というキーワードを産みだし、それを流通させることで、戦争を戦っていく。民族浄化という言葉を聞いた瞬間、ボスニアの複雑な利害関係は忘れ去られ、「ミノソビッチ大統領=悪」という分かりやすい理解が、行われてしまう。戦争は、外交や政治の一種なので、兵器と兵器のぶつかり合いだけが戦争ではない。どの様なイメージを流通させるかも、戦争の一部なのだ。そして、メディアの発達により、イメージとしての戦争はますます重要性を増していく。

哲学者のポール・ヴィリリオは「情報化爆弾」というタイトルの本を書いた。別にイラクの人質事件に言及しているわけではないが、今回の事件は、情報化爆弾というものの正体を知る格好の例になるのではないかと思っている。
つまり、戦場ではなく後方だと思われてきた、お茶の間にいきなりショッキングな映像という爆弾が投げ込まれる。人々はその映像を見て、肝を潰し右往左往する。うまく行けば戦わずして、敵国の軍隊が撤退するという自体に陥る(民主主義の国では、民意を全く無視することは出来ないから)。これこそがこの爆弾の威力なのではないかと考えている。
今までは、物理的な爆弾こそが重要だった、相手を物理的に破壊できるから。しかし、メディアの発達によってテロリストは、メディアを用いて政治的欲求を通すことが出来るようになった。

多分今頃、全世界のテロリストは、アキバあたりでパソコンとDVカメラを物色しているはずだ。知らないけど…。


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Last-modified: 2015-02-01 (日) 14:38:24 (3365d)