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KPIと算術とコンテンツの面白さについて

ゲーム業界とKPI

私は、最近、ゲームのKPIを扱う仕事に関わっている。KPIと言うのは、key performance indicatorの略で、重要業績評価指標と呼ばれている。つまり、ビジネスに於ける重要な指標のことだ。 たとえばゲームで言れば、

  • 会員登録者数→どれだけのユーザーが登録したか?
  • アクティブユーザー数→どれだけのユーザーが実際遊んでいるか?
  • 継続率→どれだけのユーザが遊び続けているか?
  • 課金者数→有料で遊んでくれている人はどれだけ居るか?
  • 課金額→有料で遊んでくれている人はどの位お金を使っているか?

等が、KPIと言われている*1。つまり、お客様の動向を数値として見て行こうというゲーム業界の新しい慣行の事を言う。

データを見ると言う新しい慣行

先に新しい慣行と書いたが、ゲーム業界にはそのような習慣は無かった。確かに、販売本数は気にしていたが、基本的にゲームクリエイターが、自分たちの面白いと信じるゲーム・世界観を作りお客に届ける。お客が面白いと思いそのソフトを購入すれば、万々歳と言う世界だった。ゲーム会社は、ユーザーからのアンケートや店頭でのユーザーの反応は見ていたが、基本的には、ゲームクリエイターが作りたい世界観を実現すると言うスタイルだった。 こうなった要因は二つある。基本的にゲームの提供メディアがCD-ROMやカセットのため、後からの変更が不可能だったこと。もう一つは、ユーザーの行動は限定的にしか分からなかったことだ。

ソーシャルゲームの隆盛と、KPI重視の流れ

しかし、ソーシャルゲームの流行が全てを変えてしまった。ソーシャルゲームは、ユーザーの行動が全てサーバに蓄積されるため、行動を解析することが可能になった。また、ゲームロジックもCD-ROMやカセットではなく、サーバにあるため、ゲームを運営しながら、ゲームバランスや機能の改修が可能になった。この二つが可能になったこと、そして、新しいソーシャルゲームの作り手、GREEやDeNAの成功(利益率が40%を超える!!)によって、老舗のゲームメーカー大手も、遅まきながらKPIを利用したゲーム制作を考え始めた。KPI重視の発想は基本的に、ユーザーが楽しいと感じていることはユーザーの行動に反映され、データにも反映されるという哲学だ。逆に言えば、ユーザーがゲームの世界観に感じ入ったとしても、データに反映されないなら意味がないと言う認識だ。

数値と感性どちらを信じる?

しかし、DeNAと行った新興企業と比べて、ゲームメーカー大手はゲームの面白さに対する独自のポリシーを持つ。そもそも彼らはKPIツールがない時代から、ユーザーが求める物を探り当てる独自の嗅覚を持っていた。加えて彼らにはゲームの面白さに対する哲学もあった。たとえば、売り上げが0.1%しか上がらなくても、彼らが面白いと思った機能は入れたいと考えた。それらの考え方は、KPIを使った数値管理とは相性が良くないものだ。DeNAのような新興企業の方は、企業文化として単純にKPI重視を打ちたてれば良いので、その点、ジレンマは少なかった。

KPIツールとゲーム作りのジレンマ

老舗のゲームメーカーも遅まきながらKPIツールの導入を進めているが、彼らが見落としている点がある。それは、ゲーム作りにおけるKPIツールの導入は、単にツールの導入だけでは上手く行かず、それは、ゲーム制作ポリシーを変えなければ、成功しないと言うものだ。たとえば、新興ソシャゲメーカーgloopsは「データ様に聞け」とまで言い切っている。http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/tech/docs/ct_s03600.jsp?p=002051 つまり、ゲームクリエイターの考える世界観の提供で無く、ユーザーからのデータが全てだと言うゲームポリシーに転換しない限り、上手くは行かないだろう。 端的に言うなら、あなたがゲームプロデューサーだったとして、売り上げは上がらないが、ゲームの世界観を広げるために必要な機能を認めるかどうかと言う問題だ。 たとえば、古の名作ゲーム「ゼビウス」にはゲーム中には出てこない独自の人工言語「ゼビ語」と言う設定があった。ゲーム中に出てこないのだから、売り上げにはまったく貢献しない。当然KPIにも現れない。そのような機能をプロデューサーである貴方は認めるかどうかと言う話だ。KPIツールを作る、あるいはKPIツールに沿った経営をすると言うのはそれら「ゼビ語」のような裏設定を作らせないことを意味する。果たして、老舗のゲームメーカーは、ゲームクリエイターをKPIツール重視の姿勢に変えることが出来るだろうか?

KPIツールはツールだけど、ポリシーでもある。

DeNAやGREEでの成功(利益率40%)を受けて、各社KPIツールの導入を急いでいるが、単にKPIツールを導入しただけであれば、利益率の急上昇は見込めないだろう。なぜならそれは単にツールの導入に過ぎないからだ。利益率を上げたいなら、KPIファーストあるいはデータ様に聞けと言う企業文化を作り上げなければならない。それは、ユーザーが楽しいと感じることは、全てデータとして反映されるのだから、データに反映されないことは無駄だというポリシーだ。そのことは、ゲームクリエイターに「ゼビ語」のような裏設定を作らせないと言うことを意味する。

KPIとどんぶり勘定

昔からコンテンツや芸能業界はどんぶり勘定だと言われてきた。それは仕方がない面もある。コンテンツ制作は水物で、当たるかどうかは良く分からなかったからだ。しかし、KPIツールの導入によって、機能単位、イベント単位、ユーザー単位で、売り上げを細かく分析することが可能になった。そのことはゲーム制作をどのように変えていくのだろうか?

なぜかカードバトルばかりになる。

皮肉なことに、KPI重視のゲーム制作を続けた結果、ソシャゲ市場ではカードバトル物ばかりになってしまったように思われる。何をやったら売り上げが上がるのか細かく検証をした結果、ガチャが儲かることが分かり、結果として同じようなゲームが市場を席巻してしまった。KPIを使って、なるべくどんぶり勘定を無くしていった結果、商品の多様性が減ってしまうと言う結果をもたらてしまっているのかも知れない。

Category: [コンテンツ] - 14:58:59

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*1 この項目は、スクエニ安藤のKPI定義を参考にした。http://www.famitsu.com/guc/blog/sgrev/11058.html

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Last-modified: 2015-02-01 (日) 14:38:24 (3364d)